日本語入力に適したキーボード(その3)

日本語入力について言うなら、キーボードと共に辞書の構成が大きく影響する。日本語は同音異語が多く、カナ漢字変換に際しトップに表示する語を選ぶ方式が、大別すると2種類ある。一つは出現頻度の高い順に並べる方式で、もう一つは前回使用した語をトップに置く方式である。
どちらが良いか意見の分かれる所だが、今までの経験に照らすと、後者の方式、つまり前回使用した語をトップに置く方式の方が実用上優る。同音異語は多いが、一つの文書の中で同音で違う語が出現する頻度は非常に少ない。例えば「おんど」には「温度」「音頭」「音戸」があるが、「音頭」が出て来る文書で「温度」や「音戸」が出て来ることは極めて稀である。「くるわ」と言う語は、城郭関係の文書では「曲輪」が出現するが、その文書に「廓」が出て来ることは殆どない。「歓談」と「間断」や「寒暖」も同様である。一つの文書の中で同音の異語が使われる確率が高いのは、筆者の経験では「ふか」と「いじょう」と「かん」の3語である。「ふか」は「負荷」と「付加」と「不可」のうちの二つが、「いじょう」は「以上」と「異常」が、そして「かん」は「間」と「感」が同一文書の中で出現するのを経験した。
この3つの語以外、一つの文書で同音異語が出て来る確率は低いので、前回使用した語をトップに置く方式なら、最初に正しく変換すれば二度目からは変換結果を確認する必要がない。「ふか」と「いじょう」と「かん」の場合だけ気を付ければ済むので、入力が非常に楽になる。勿論ほかにも無いとは言えないが、文書を打っていると前回と同じ言葉かどうか判るものである。OASYS辞書はこの方式を採用していたが、OASYSの入力速度が他を断然圧倒したのは、キーボードの扱い易さと共に、この辞書が大きな要因だったと思う。OASYSの方式がユーザーに受け入れられていた証拠として、OASYSのヘビーユーザーは長文一括変換を使わなかったことが挙げられよう。長文一括変換と言うと格好は良いが、変換が完璧である保証が無い以上、変換後に見直して確認せねばならず、却って余分な時間が掛かる。OASYSでも長文一括変換は出来たが、短い文節ごとに変換し、正しく変換されていることを確認して行けばリズミカルに打鍵出来、結果としてこの方が速く楽であった。
辞書をどのように構成するかは理屈を並べても駄目で、文書作成現場での実状を正確に把握し、それに基づいて考えることが実用性を高める要因である。その意味では今のMSの辞書はなっていないし、年々使いにくくなっている感がする。10分間で二千数百字の入力を可能にした要因は何であったか、関係者は今一度原点に立ち返って見直して欲しいものである。