巨人V9時代の名二塁手土井正三氏逝く

相手チームにとって誠に厭らしい選手だったらしい。攻撃側は土井が居ると兎に角やりにくいとぼやいていると言う話をしばしば聞いた覚えがある。巨人は名手千葉引退後、二塁手が穴だったが、土井が入団し二塁に入って漸く安定した。
阪急との日本シリーズで、巨人がランナー一・三塁からダブルスチールを敢行し、土井が岡村浩二捕手の股の間に足を突っ込んでホームベースを踏み、次ぎの瞬間その足を抜いて転がったプレイは語り草になった。一見岡村のブロックに土井は跳ね飛ばされたように見えたが、岡田球審はセーフを宣告。ブロックに絶対の自信を持つ岡村は激高して球審に暴力を振るい退場となった。この時点で土井本人と球審以外は大変な誤審と感じていたはずだ。ところが翌朝の新聞に土井が岡村捕手の股の間に突っ込んだ足がホームベースをしっかりと踏んでいる写真が掲載された。この写真により岡田球審の判定の的確さと土井の走塁技術の高さが脚光を浴びることとなった、岡村捕手も参りましたと語ったと言う。
日岡球審は、あの写真が無ければ永久に誤審と言われ続けただろうと、その写真を写したカメラマンに感謝していた。土井はこのプレイについて、「滑り込んだらブロックされてしまう。岡村捕手の股の間に僅かな隙間があったのでそこに足を突っ込んでホームを踏んだ。だがそのままでは足が折れてしまうので、転がって足を引き抜いた。」と語った。とっさにそのような判断をし、その通りにプレイできるとは驚嘆するほか無く、ただただ感服の至りである。その写真は「【土井氏死去】野球史に残るクロスプレー 69年日本シリーズ」で見れる。同記事ではこの写真は各紙に掲載されたと記されているが、掲載されたのは一紙だけだったはず。総てのカメラマンが同じ瞬間にシャッターを切れるはずはなく、たまたま一人がこの瞬間を撮影していたと、当時報じられていた。
名手の逝去を悼み、ご冥福を祈る。
【追記】
思い出したことがあるので、追記する。
土井は練習では全く見栄えのしない選手だった。打っても当たりはしょぼく、実戦ではとても使えそうもない印象だった。だが実戦になると誠にしぶとく、攻撃面でも相手に嫌がられる選手だった。