異能力士朝青龍

朝青龍は異能の力士だったと思う。昔栃錦が異能と言われた。タイプは違うが朝青龍も異能であった。彼の特徴は業を繰り出すスピードが、他のとの力士より桁違いに速く、相手が一つ技を出す間に二つも三つも技を繰り出し、自分は完璧な態勢を作りながら相手は相撲を取れない状態に追い込んでしまう。そのスピードと技の切れ味、これが朝青龍の最大の特徴で、長い相撲史上、始めてのタイプではなかろうか。その特徴も、肘を傷めてから見れなくなってしまった。
しかし、今場所は気力だけで取っていたような気がする。好調な時は、序盤は六分か七分の力でスタートし、徐々に調子を上げて千秋楽に最高潮に持って行った。今場所は最初から飛ばし、昔のスピード感は戻っていないが、かなり復調したかに見えた。しかし、それも１４日目に優勝を決めるまでで、千秋楽の結びの一番では闘志のかけらも見えなかった。恐らく肘の具合も完全ではなかったのだが、無理してぶっ潰れてももう一度優勝せずに終われるかと、気力だけで取っていたのではないか。それが１４日目で優勝が決まり、そこで完全に燃え尽きてしまったように思う。
彼の土俵人生は事実上ここで終わっていたのかも知れない。自分でそれが判っているので、今回の騒動を機会に引退を表明したのではなかろうかと推測する。
塩爺が、朝青龍は実に好い男だが、横綱とチャンピオンの違いをとうとう理解できず終いだった、と語っていたそうだが、その通りだろうと思う。その違いを理解し、自分を律していたらと惜しまれてならない。白鵬は理解出来ると思うし、もう理解しているかも知れない。彼は双葉山を目指していると聞く。精進を怠らず、双葉山のような大横綱になって貰いたい。