大投手稲尾逝く

往年の大投手、神様・仏様・稲尾様が逝った。西鉄ライオンズは中西・豊田・稲尾ら怪童がずらりと並び、投・打・守の揃った手の付けられない強いチームで、三原監督会心の作だった。
稲尾はキャッチボールをしているような一見軽い投げ方だったが、スピード有り、速球の伸びが素晴らしく、抜群のコントロールを誇っていた。彼のピッチングで印象に残ったシーンが有る。それはシーズンが終わった後の巨人とのオープン戦で、八時半の男、宮田と投げあった。その年は宮田が最も光ったシーズンで、彼のピッチング・フォームは今も目に焼きついている。宮田が西鉄の左バッター(誰だったか忘れた)を迎え、インコーナーの高め・低め、ぎりぎりのコースでストライクを二つ取り、第三球はアオウト・ハイをかすめる速球で三振を取った。その後、今度は稲尾が巨人が売り出した新人の左の強打者を、宮田と全く同じ攻め方で三振させてしまった。宮田の攻め方を見た後だったので、2ストライクの次の三球目は、アウトハイと直感したらその通りで、バッターは稲尾に気圧されてがちがちだったのか、バットを出したもののかすりもしなかった。両投手共まるで赤子の手を捻るかのように、バッターを翻弄。一流投手の至芸を見た気がした。その日の宮田は典型的なオーバー・ハンドの投球、稲尾はまるでキャッチャーとキャッチボールをするかのように、軽くポンと放り込む。二人の一流投手の芸を十分に堪能した試合だった。