名人千葉茂の至芸

吉野家の安部社長は「お客さんの動作の一部始終を把握していると、」「客から要求されるより先に、客の動きによって求められるサービスを察知し、要求を満たす。」ことを目指していると言う(昨日のエントリー)。昔の店では客が水を欲しい、追加注文をしたいと思って手を挙げると、どこからともなくボーイがすっと出て来たものだ。どこで誰が見ているのか客に気取られることなく、しっかりと目配りが出来ていた。
それで思い出すのは、往年の巨人の名二塁手千葉茂。攻撃の時、ベンチが出したサインを、千葉は決して見落とさない。所がサインを出したベンチでは、千葉がいつ見たのか判らなかったらしい。千葉はサインを見たことを味方にも悟らせなかったのだから、相手方に判る筈はない。それでいて見落としは皆無だったと言う。日本シリーズで与那嶺が三塁に居た時のこと、次の打者千葉と目が合い、以心伝心与那嶺がスタート、千葉はスクイズバント。勿論見事に成功。ベンチからサインは出ていなかった。だから相手は読みようがない。名人と達人の至芸と言うほかない。
千葉は守備でもダブルプレイの時、三塁或いはショートからの送球を、一塁を見ないで転送すると言われていた。本人はちゃんと見て投げていると言っていたのだが、傍からは判らぬ目配りだったのだろう。
千葉はクランドを離れるともっさりしたおっさんだったらしい。しかし、広岡が巨人に入団し、初めて千葉と共にグランドに立ったときの驚きの言葉、「千葉の全身が大きなクローブに見えた」と語ったのを今も思い出す。真の名人と言うべきだろう。