パイプ役の必要性

ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英先生は、20日に佐賀市文化会館で行われた講演で、科学が高度化したため科学と市民の距離が離れているとし、この状況の改善には「科学を市民向けに解説する職業が必要」と、科学と市民を結ぶ新たな"パイプ役"の必要性を強調していらっしゃる(ココ)。
このご指摘は全くその通りと心から賛同する。但し、パイプ役が必要なのは科学だけではなく、あらゆる分野に共通して言えることである。例えば湯築城について、城好きの人、中世伊予の歴史を知っている人に説明するのはそう難しいことではない。ところが基礎知識を持っていない人、或いは小・中学生に説明しようとするのは簡単ではない。まして、小学生の地域学習用の資料を作ろうとしたら、はたと困ってしまう。また湯築城の紙芝居を作るから説明しろと言われたとしたら、全くお手上げである。
実際に紙芝居を作ろうとしたら、近年急速に進んでいる研究成果を把握し、それを整理し直して、紙芝居を作る人達に説明して理解して貰うことが第一のステップ。こうして十分に理解して貰った上でストーリー化し、シナリオを作る。これが第二のステップ。言い換えるなら、第一ステップは学問の分野の延長であり、第二ステップは作家の分野に属する。
湯築城を一般人が理解して貰うのがこのように難しいのは、一つには湯築城の調査が三分の一しか済んでいないため、未解明のことが多過ぎて、機能にしても変遷にしてもすっきりしたストーリーを語れないこと。二つには、中世の研究が本格化してから在来説が次々と覆っているにも拘わらず、研究成果がまだ一般に知られていないため、一々注釈をつけなければならないこと、この二つが主な理由である。そのためパイプ役も二段階にわたって必要となる。このように科学だけでなく、地域の歴史、地域の文化財を知って貰うためにも、益川先生ご指摘のように、適切なパイプ役が不可欠の存在なのである。